Tarantula Page_1
Tarantula Page_2
Tarantula Page_3
 脱皮不全
 脱水症状
 ハエ
 外傷
 刺咬症例
 ポエ判別方法
Tarantula Page_4

Tarantula Spider Page_3/大土蜘蛛 其ノ参

脱皮不全

 タランチュラが死亡する原因のなかで一番に来るのが、おそらくこの脱皮不全だと思われます。次点が水切れ、カビ、温度低下と来て、落下事故、寄生バエというところでしょうか。

 僕自身、脱皮不全で何匹か殺してしまっています。乾燥系徘徊性種、と幼体などです。
 脱皮不全の最たる原因は湿度不足でしょう。脱皮時にはそれなりの湿度がないと、殻から上手く抜け出ることが出来ず、無理に脱皮しようとして、足が取れてしまったりという事態になります。この脱皮不全、成体ならばどうにか生き延びる可能性も零ではありませんが、幼体ならば、大抵の場合、体力が尽きて死亡します。

 此が一番多いのが、冬場の乾燥系の種でしょう。小さなケース内部の空中湿度というのは、外気湿度に大きく左右されます。
 地域により多少は違うでしょうが、日本の冬場は大変乾燥します。僕の部屋は、機械や本の関係から除湿器を掛けているので、尚更でしょう。そりゃ、脱皮不全もしようというものです。

 防ぐ手だては、脱皮の時に張る巣―モルティング・ベッドを確認したり、腹部の様子から明らかに脱皮が近いと思ったら、霧吹きで湿度を上げるというコトですが、正直、これは一時的なもので、そう長時間、この湿度を保つことは出来ません。
 個人的に、加湿器などで部屋ごと湿度を上げてしまうか、簡易温室の中に入れて、温室内部を湿度高めに保つ方が良いと思います。
 まあ、ケージの数が増えてきて、部屋中がケージだらけ(或いは、水槽だらけ)、という方は、既にかなり湿度は高いでしょうが。
 僕の場合は、PCやオーディオや本が山と積まれているので、除湿器を掛けています(電気代掛かるけどね(汗))

 幼体時の脱皮不全は、幼体の時は大抵高めの湿度で飼育しているでしょうから、湿度不足というよりは、脱皮時の衝撃によるものだと思います。
 姿が見えないので、何気なくケージを持ち上げてみたら脱皮中だった――というヤツです。常日頃観察し、拒食が始まったら、出来るだけ持ち上げない、持ち上げる時はそーっと持ち上げるようにする、というのを心掛けると良いでしょう。

 そーんな基本的なこと? と思われるでしょうが、意外や意外、慣れてくると忘れてしまいがちになるものですからね………


 脱皮不全で死なせると、原因は完全に飼育者にあるので、かなり凹むと思います。僕も、最初の時、思い切り後悔の嵐でしたので……
 そうならないよう、冬場は特に気を付けてください。温室ではなくケージ一つで飼育している方は、特に。

脱水症状

脱水症状を起こしたタランチュラ。脚を内側に折りたたむ……というよりは、体液循環が上手く行かずに自然とこうなるようだ

 タランチュラの死亡事故として、二番目ぐらいに来るのが、この脱水症状ではないでしょうか。
ぐったりとして足を内側に丸めてしまっている。樹上性種の場合は地面の方に下りてしまい、うずくまっていて、突いてもひっくり返してもなんの反応もない。

このような状況を招く原因は、水切れ、通気、或いは外傷のどれかであるようです。

 水切れというのは、飲料水の不足と、床材の過乾燥の両方を指し示す言葉のようです。タランチュラの腹の裏側には書肺と呼ばれる呼吸器官がありますが、この器官は適度に湿気を帯びていないと機能しないようで、種に適度な濡れ具合というものがあるようです。
乾燥系と呼ばれるBrachypelma属やGrammostola属などは、水容器さえあれば床材が乾燥していても何ら問題なく飼育出来ますし、Grammostola roseaのように、水容器が空になっても数週間平然と生きている種もいます。が、アースタイガーやCeratogyrus属などのバブーンの一部は、水切れに大変弱く、適度に床材が湿っていないと死亡しますし、Hysterocrates属などはべちゃべちゃに濡れた床材を好み、乾燥した状態(しっとり濡れたレベル)で即死亡してしまいます。

 対策は、直ぐに水容器に水を張る、霧吹きをして空中湿度を上げる(気化熱で寒くならないよう、温度にも注意)などです。ぐったりして水容器へ行くことすら出来ないような場合は、ピンセットなどで体を移動して、口元を水容器に付けてやったり、ひっくり返して口元に注水瓶やスポイトで水を与えるなどです。早期発見、早期治療が重要ですので、日々の観察が大切です。とはいえ、観察を怠っていなければ、このような状況はそうそう招かないものかもしれませんが。

 脱水症状で死亡する場合、原因の一つとして通気が挙げられることがあります。
 これは、樹上性種、それも幼体時にある事故で、症状は同じく、ぐったりとして動きません。
 蒸れに弱い、というのは、この脱水症状を起こしやすいタランチュラによく使われる言葉なようですが、考えてみるとなぜ此が脱水症状と呼ばれるのか少し不思議です。

 個人的には、これは脱水症状というよりは、呼吸困難の一種なのではないか、と思います。蒸れを起こしたケージというのは、通常、何らかのガス(タランチュラの排泄物、コオロギの死骸などから発生)が充満した状態になっています。このガスには、少なからずアンモニアが含まれていると思うのですが、これが書肺の中の水分に溶け込み、何かしら具合が悪くなるんじゃないかなぁとか思ったりします。本当のところがどうかは知りませんが。
 なんにしろ、多湿系の樹上性種に圧倒的にこの事故は多く、凶暴種でも呆気ない程に調子を崩して死亡します。
 通気確保には、ケージの上下に空気穴を設けること、そして何より、餌の食べかすなどは見付け次第除去するこまめさが必要です。

 正直、この状態になったタランチュラはかなり手遅れな感があります。が、水を飲ませることで体内の毒性濃度が下がるのか、助かることがあるようなので、諦めずに手当をしましょう。

 最後の外傷ですが、これは殆ど脱皮不全と連動して起こります。ので、詳細は脱皮不全に譲りましょう。
 ただ、稀にピンセットなどで傷を付けてしまった、ということがあるかもしれません。僕はまだ此を経験していませんが、これも脱皮不全の時の傷と同じように、片栗粉などを塗し、塗りつけて止血し、出血により足りなくなった水分を霧吹きなどで与えると良いようです。


 この手の事故というのは、注意深く飼育していればまず起こらないことなので、大切なのは起こさないことだと思います。
 僕自身、何度か起こしてしまい、その度に顔面蒼白になり必死で手当をしたりしました。死んでしまった個体もいれば、助けられた個体もいます。死んでしまった時には、滅茶苦茶凹みます。明らかに自分のミスで殺してしまった訳ですから。
 だから、観察を怠らないようにして、こういう事故が起こらないように飼育して下さい。

ハエの恐怖

 正直、こんなものは体験したくなかった。ってういか、体験するとは思ってなかったですが、体験してしまいました。 土蜘蛛通信三号(みるかし姫さんが出しているタランチュラ専門紙)などに書かれていた、タランチュラに寄生してしまうというハエの話。ただ、土蜘蛛通信に載っていたモノは、タランチュラに専門的に寄生するというよりは、普段別のものを食べているハエが、食べるものがないときに元気のない個体を襲うのでは、ということらしいです。
 あ〜、そないなこともあるのかぁとか思っていたのですが.....いたのですが......

 今回、僕が体験した時は、予め知っておいたので原因の究明が早く、被害は小さいとは言えませんでしたが拡大する前に対処することが出来ました。右の写真が、捕獲したハエ。カスリショウジョウバエよりもわずかに大きく、目が暗い赤。腹は縞模様と、どことなくトリニドショウジョウバエを彷彿させますが、正確な種は不明です。
 輸入したWCキングバブーンに取り憑いていたもので、USAのハエなのか、ケニアのハエなのか、そこは不明です。その何匹かが部屋に放たれ、好き勝手した結果、タランチュラが死亡するような事態につながりました。

 最初に死んだのは、WCのサウスアメリカンピンクトゥー。輸入したクモを持ち帰ってから、約12日後のことです。長く飼育していた個体で、脱皮して暫くの個体でした。脱皮直後からやや元気が無かった為、死亡したときも別の要因だろうと思いました。ハエに寄生された時に起こるという、脚が外へ反り返る現象も認められなかったからです。ただ、死亡後、何処から現れたのか沢山のハエが集っていたのが印象的で、少しイヤな予感がした僕は、その後、ハエ取り紙を導入しました。
 それまではハエトリグモにでも任せておこうと思っていたのですが、イヤな予感がどうしてもしたからです。殺虫作用のある製品は、我々のような蟲や両生類爬虫類などを飼育している人間には絶対相容れないものですが、「誘引物質+粘着シート」タイプの、殺菌作用のない製品があります。そうした製品は裏などにちゃんと「殺虫剤を使用していません。殺虫剤を使いたくない部屋などに!」等と明記されているので、調べて買えば問題は生じません。また、クワガタ用として、クワガタ専門店でも販売されているものがあるようですが、こちらは小さいので、ケージの中へ入れる専用ですね。

 効果は覿面で、あっという間にかなりの数のハエが集まりました。そして、その時に問題のハエの数が、最初部屋に逃げたものより遙かに多いことに気づかされます。
 「ひょっとすると、アレはウジが原因だったのかもしれない....」解剖しなかったことを悔やみましたが、あとの祭り。そして、輸入クモを導入してから二週間半が過ぎ、明らかな犠牲者が出ました。
 脚が反り返って死んだ幼体。ちなみに、これはklaasiだったりする(爆)
 飼育していた幼体の一匹。それが、妙な体勢で固まっていた時は冗談抜きで、血の気が引きました。聞いていた「脚が逆側へ反り返る」現象です。
 ピンセットで幼体を裏返すと、床材にはウジが生じているのが視認出来ました。昨日餌を与えた時は元気だった幼体が、あっけなく瀕死になっていたのです。

 幼体を助けることは不可能と悟り、ケースごとビニール袋に取り敢えず封入します。
 それから、周辺にあった幼体ケージの全チェックを開始。
 疑わしきは罰せずなどというあまっちょろいことは言ってられません。ウジでなくてもダニが確認されたケージは全部怪しい、周辺にあったらそもそも怪しい。結果、すべての幼体ケージから幼体を移動、床材を取り除き、ケージを洗浄、熱湯で消毒し、新しい床材を入れて幼体を戻します。
 元の場所に戻すのは不安だったので、簡易温室にすべて移動、温室内にハエ取り紙を設置します。それから、成体ケージも軽くチェック....

 凶暴な種を、しかも幼体を移動するのは集中力を要するので楽な仕事ではありませんし、ミスは禁物なので、チェックの時は落ち着くことを念頭に置きました。それでも、結構ミスしました。こうした時は、当たり前ですが落ち着くことが大切ですね。僕は致命的なミスはしませんでしたが、脱走されたり、咬まれたりは洒落になりません。一分一秒を争うよりも、確実さ、正確さを念頭に置くべきだと振り返って思います。

 結果としては、乾燥系のケージにはそれらしいものは見あたらず、塗れた部分の糞の周辺に、数匹のウジを確認しました。ハエを殖やしていると分かることですが、ウジには水分が必要不可欠。乾燥系にはこのハエの脅威は及びにくいのではないかと思われます。ただ、乾燥系のケージでも、水容器周辺などで密かに生き延びて、さなぎになっていたものを確認したので、油断は出来ません。

 此処で、このタランチュラ幼体を喰ったウジの主、謎のショウジョウバエについて考えてみると、そのサイズ、発生時期からして、おそらくライフサイクルは10〜14日程度と予想されます。温度、餌の有無も成長を左右しますが。
 そして、“おそらく”ですが、このハエは羽化直後から産卵が可能なタイプではなく、カスリショウジョウバエのように、3〜7日の性成熟期間が必要なものだと予想されます。
 理由は、最初に入ってきたハエが既に成熟したメスで、それが卵をピンクトゥーのケージに生み付けたのだとすると、それが羽化するまでに約2週間掛かっていること。上の写真のハエは、輸入クモを導入した翌日ぐらいに捕獲したものだったと記憶していますが、これが捕まるまでに産卵していたのでしょう。アビだけが犠牲になったのは、他のタランチュラのケージは乾燥系だった、などの要因が働いたものと思われます。
 そして、ピンクトゥーを食らったハエが羽化、部屋に逃げます。翌々日、僕はハエ取り紙を導入して大部分捕獲したようですが、数匹逃がした連中がいたと考えるのが自然。それが、幼体のケージに卵を産んだとして...
 ウジの発生具合からみて、孵化から一日から三日。幼体が死んだのは、18日目というところだから、産卵されたのは15 日目か17日目。アビが死んだのが12日目だから、それから3〜5日のブランクがある。
 予測を総合して、
「ライフサイクルは10〜14日程度、カスリショウジョウバエのように、3〜7日の性成熟期間が必要なタイプ」
 となるわけです。
 まぁ、あくまで予想なのですが、そうだとするならある意味運が良いです。ハエが飛んでいるのに早期に気づくことが出来れば、次の産卵をされる前にハエ取り紙などで捕獲が可能だということを意味するからです。

 …………もっとも、この寄生するハエが一種という保証はなく、ライフサイクルの短いヤツが入ってくる可能性はあります。しかし、僕が体験したやつに限って言えば、「初動を素早くすることで被害を最小限に食い止めることが出来る――――かもしれない」ということでして(仮定形なところがいい加減で僕らしいですね♪)。

 とにかく、「見慣れないハエが飛んでいる」+「最近WCの輸入物を導入した」が重なった場合は、これを疑って掛かって損はないです。杞憂で棲めば、それは喜ばしいことです。

 もしも発見したのが夜だとか、ハエ取り紙を導入するのがどうしてもイヤだ、という方は、水を張ったバット、或いは表面積の拾いケースなどを、高いところや床などの数カ所に設置することで、或程度捕獲することが出来るようです(ただし、其程高い効果は期待しない方がよろしいかと)。
 普通の水だと呼び寄せる効果はそこそこでも脱出されることがあるようなので、多少粘りけを持たせる為に、タンパク質系の何かを溶かし込んだ方がいいかもしれません。我が家で一番捕獲率が良かったのは、冷凍ピンクマウスを融かすのに使った水(ビニールに入れずに直で放り込んだ)を片づけ忘れて放置したものでした(苦笑)

 さらに付け加えるなら、今回幼体が犠牲になったのは、幼体が入っていたのが試験管ではなく、ハエが丁度通り抜け出来る程度の穴を開けたタッパーだった、というところが大きいです。デリカップに針で穴を開けたものには、入れる道理もない。幼体を飼育している時は、怪しいハエが飛んでいたら、幼体を簡易温室などに移動されるべきかもしれません。簡易温室なんて、大きめのプラケの蓋と本体の間に、クッキングペーパーを挟むだけで出来るんですから....(このとき、幼体のケージの中にハエなどがいないことを確認してやらないと逆効果ですし、入れ方によっては蒸れて全滅も有り得ますので、予め、どのような場所に入れるとどんな環境になるのか、或る程度調べておいた方がいいかもしれません)

 幼体のケージのように清潔な環境だと、孵化したウジは食べるものが無くてさまよいます。その先が、おそらく柔らかい幼体の内臓などなのでしょう。
 もしもハエが幼体のケージなどに入っていることが確認されたら、幼体の体に生み付けられていないことを祈りつつ、床材などの全換えを行いましょう。それぐらいしか、手だてはないです。

 どうか、二度と体験しないですみますように....。思い出したくない経験でしたが、土蜘蛛通信などの情報があってこそ被害が少なくて済んだのだということで、イヤな体験ほど書いた方がいいかもしれん、と思ったので書いてみました。

外傷

 まず滅多にありえませんが、タランチュラも怪我を負うことがあります。
 原因は幾つか考えられますが、脱皮不全による欠損、脱皮直後に餌コオロギなどに囓られるコトによる外傷、蓋を閉めた時に挟んでしまう、ピンセットで傷つけてしまう――どれも飼育者のミスによるものですが、こうした事故があり得ない訳ではありません。……や、僕が飼育ヘタだからそうなのかもしれませんけどねぇ(泣)

 脱皮不全による欠損の場合、そのまま死亡することが多いです(正確に言うと、脱皮不全で死亡する時は四肢が欠損してそこからの出血などで死亡する訳ですが)。
 コオロギに囓られた、ピンセットで誤って傷つけてしまった、という場合、傷からは体液が出ます(前者は経験にないので、予測です)。人間の血は赤いですが、タランチュラの血は赤くありません。白っぽく透明な液体です(たぶんどの種も同じでしょう。少なくとも、アビキュラリアやキングバブーンはそうでした)。
 そのまま放置すると出血多量で死ぬことがあります。傷口に片栗粉などを塗りつけ、止血すると良いそうです(僕はミクロスパチュラで多めにすくい、それを擦り付けるようにします)。出血よる脱水症状が起こると深刻なので、併せて、水を飲みやすいように水容器に水を張ってやると良いようです。

 四肢以上に、特に背甲や腹部の傷はかなり致命的です。片栗粉だけではダメかもしれません。そういう場合は、これはまだ実践していない(実践する機会がまだない)のですが、瞬間接着剤が良いかもしれません。アロンアルファなどの瞬間接着剤は、水に触れるとそれ以上先まで進みません。ヤモリなどの卵が破けてしまった時、これで接着したら無事に孵化した、ということがありました。
 もっとも、瞬間接着剤となると、タランチュラにかなり近づかねばならず、凶暴種などでは不安も残りますので、やるときはよーく考えてやった方がいいでしょうね....(そして、良かったら結果教えて下さい)。

 そうして止血した脚は、繰り返し脱皮をすることで復活していきます。が、脚の第一関節から先のみが欠損、などという場合、脱皮しても治らない場合があります。
 そういう場合は、どうすれば治るのか皆目見当もつきません。タランチュラに任せるしかないです。ただ、我が家の個体は自分で脚の付け根から千切り取ってしまいました(左上写真。右下の方に転がっているのが、第一関節から先を欠損していた左第二脚)。
 付け根から綺麗に無くなっており、出血はなく(筋肉かなんかで止血されるんでしょうかね?)、気づいたら脚が転がっていた、という感じでちょっとびっくりです。おそらく、次回以降の脱皮で脚が復活してくるでしょう。

刺咬症例

 タランチュラに咬まれるという事態は、まぁ想像したくないことであり、出来るならば一生遭いたくもないでしょうが、遭いたくもないのに遭うから事故と言うのであり、世の中には飼育者が咬まれ入院した、という例が幾つかあります。その数が多いか少ないか、はさておき………
 飼育者が咬まれた場合、幸いにして、命に別状はなく、後遺症が残ったという話も聞きませんので、其程怖がることはないようですが、かとって無事と言って済まされる程度の症状ではなく、痛みだけ取っても相当のものであるようです。
 国内では、Poecilotheria regalisLasiodora kulgiHysterocratesHaplopelma lividum等に咬まれた例が聞かれます。海外ではもっと多いようです。

 症状としては大別して二つに分かれ、腫れなどの症状を引き起こす、毒蛇で言うならば出血毒に近いものと、運動神経を麻痺させ動けなくする、神経毒に近いものです。が、タランチュラの毒性は種により様々であることが知られており、完全にどちら一方とは言えないようです。
 また、その症状の度合いは、同じ種類でも個人差があるとされます。
 Poecilotheria regalis成体では、麻痺が全身に及び、一週間ほどは足腰が立たず、退院するまでに二週間ほど掛かったとされます。
 咬まれたのは共に成人男性で、症状の経過から回復までの時間、後遺症は特になかったこと等まで、ほぼ同様です。
 ところが、海外で白人男性が、Poecilothera fasciataに背中を数カ所咬まれたが特に麻痺などの症状はなかった、という話があります。咬まれた深さが浅かったとしても、数カ所咬まれている以上、或る程度の症状を呈して然るべきなのですが、特筆すべき症状は無かった………というこの事例は、運良く消化液が入らなかった、という想定を除けば、体質的に平気だった、としか考えられません。
 この体質が、特異的な産物なのか、或いは人種的な差異によるものかは不明です(人種による、化学物質への抵抗力の差というのは二つあって、一つは自然風土による淘汰の結果身に付けた血統的なもの、もう一つは後天的な生活環境――食事や、幼い頃から或る程度の毒物刺激に慣れて抵抗力がついた、等――によるもの)。
 不明である以上、既にある二つの日本人成人男性の症例から推測し、日本人が咬まれた場合の効果は有り難くないことに絶大であると考えて良いでしょう。

 とは言え、白人男性が皆抵抗力があるという訳ではないようで、Pterinochilusに咬まれ、二日ほど足腰が立たなくなったという話もあります。
 効果が短かったのは個人の快復力に依るものか、入った量によるものか、Poecilotheraよりも効果が弱いのか………その辺の判断は付きかねますが、少なくともこの場合も、後遺症らしきものは認められなかったと言います。

 激痛と腫れ、炎症を引き起こすのはHaplopelma lividumなどの種で、これらに咬まれると、腕が真っ赤に腫れ上がり、数日から、長くて十日前後続くようです。腕の機能は殆ど使えなくなるとのことですが、これは神経が麻痺すると言うより、激痛と腫れによるものでしょう。
 Lasiodora kulgiでは、患部の腫れや痛み以外に、嘔吐感と腹痛などの諸症状も出ています。

 今のところ僕は咬まれた事がないので、その痛みが如何なるものであるか経験談としては語れませんが、話を聞く限りでは経験したくないです。
 飼育者はもとより、此から飼育を始める方も、この辺は覚悟を決めて始めてください。

 然し、世の中の方が一般的に思うかもしれない、「タランチュラを飼育していると、いつでも咬まれる危険というのが付きまとう」といことは、ない、と僕は思います。そんなことは別に考えて飼育していませんし、今のところ「やばい、咬まれる!」とか思ったことも、「咬もうとしてるな」と感じたこともありません。むしろ、「咬まれないかな、咬まれないかな……」と考えて怯えている方が扱いを誤って咬まれそうな気がします。
 とは言え、危険性を全く意識しない、という意味でもありません。此処で言う、咬まれる危険を意識しない、というのは―――咬まれるような状況に身を置かないようにすれば、危険である筈もなく………故に、危険を感じない、という意味です。

 では、どのような状況の時に咬まれるのか? 聞き及ぶ限り、咬まれる事態は幾つかのパターンに分けられそうです。

 「飛び出てきたタランチュラを反射的に掴んでしまった(或いは、掴もうとした)」というのが一番多く、此の派生タイプで、「歩いてきたのを払おうとした」というのもあります。

 HaplopelmaPoecilotheraにあったのが、この掴んでしまった、というもの。逃がしてはまずいという思考が働いたのか、飛び出てきた瞬間に掴もうとしてしまう。此は反射運動であると言えますが、冷静に考えてみれば、咬まれないような持ち方を瞬間的にするなど、経験のない人間にはほぼ不可能。力加減を間違えばクモを潰してしまいます。

 此から書くのは僕の対処法ですが、僕は今のところ、この方式で咬まれたことはありませんし、逃がしたこともありません。

 クモがケースから飛び出てきた時は、ほっときましょう。室内が締め切ってあれば、別に逃げるということはありません。走って暫くすれば止まりますので、その所をプラカップをかぶせて捕獲してしまえばいい。この時の精神安定の為にも、部屋を閉め切ってある、というのは結構重要であると言えます。窓全開でやる人はまぁ、いないとは思いますけど………
 逃げた直後をプラカップで見事に捕獲する人もいますが、此は怯えずに素早く的確にやらないと、クモの脚を挟むなどの危険があります。人間は咬まれても死にませんが、クモがつぶれると大変ですから、慣れるまではお薦めしません。が、逃げてからカップを探すので遅いので、カップは常に手の届く範囲に用意しておくのは重要かもしれません。

 手を駆け上がられた時も同じで、「うわぁぁぁ」とかパニックにならず、そのまま動きを止めましょう。体や背中に駆け上がられた場合も、払ったり、走り回ってどうにかしようとしたりせず、彫刻になったつもりで動きを止めます。
 気分は「あ〜、やれやれ、やってもーたよ〜」という感じで、心を落ち着け、彼らが何処にいるかを気配で察します。背後や頭上に居る場合は、そのままのんびり、腕の方に下りてくるのを待ちます。呼吸は低く、深く、静かに。
 兎に角、ゆっくり待ち、クモが腕から、テーブル或いは壁などに移動してくれるように緩やかに体を動かして誘導します。
 誘導した後は、カップを手にとり、かぶせてしまえばいい。腕とかにいるならその場でカップをかぶせてしまう方法もありますが、慣れてないとちょっと辛いかもしれません。ただ、幼体の場合はさっさとやってしまって良いと思います。

 幼体の場合、一番困るのが服の中に入られること。袖口や襟首から入られると、その中で落ち着いてしまう可能性が多いにあります。そうなると取り出すのはかなり困難なので、此ばっかりは入られないように注意するしかありません。僕は今のところ入られたことがないので、此に関する対処法はちょっと書けませんね……背中にクモがいるときは、服の胸の部分を持って引っ張って、襟首から入られないようにする、ぐらいかなぁ。

 払ってしまう、というのは、これはもう、ピンセットで相対することで解決する問題です。とことこ歩いてくるとちょっと怯みますが、素手ではなく必ずピンセットで相対すること。ピンセットだけだと心許ない、という方は、ケーキ用のへらが良いでしょう。長い箆ならば、点ではなく面で応じることが出来ます。

 何事につけて重要なのは「落ち着く」ということです。此は恐怖を感じない、という意味ではありません。そりゃぁ、僕だってポエキロのでかいのが意図してない時に腕を駆け上がってきたら流石に「おおおおおお」と冷や汗が流れます。
 然し、其処でパニックにならず、落ち着いて対処すること。恐怖に流されないことが肝要です。
 此が訓練により身に付けられるものなのかどうかは分かりませんが、僕のようなのんびりな人間にも出来るので、まぁぼやぼやと頑張ってみてください。

 もし、不幸にも咬まれてしまった場合は………取り敢えず、死ぬことはないので落ち着きましょう。心拍数が上がると良くないですし……呼吸を落ち着け、捕獲したら、病院に行くなり自分で対処するなり決めれば良いです。部屋が脱走出来ないような密室だと、捕獲しなくても、取り敢えず病院に行けるという意味で便利かもしれません。その場合は、家族などに、扉を開けないように注意を促すことをお忘れ無く………
 病院に行ったところで、対処療法以外の事は期待出来ませんが、鎮痛剤ぐらいは打ってもらえるかもしれません。麻痺するタイプだったら、そのまま入院するもよし。この辺は、咬まれる咬まれないではなく、飼う以上、予め少し考えて措くと良いかもしれませんね。

Poecilotheria種判別方法

 予め書いておきましょう、この項目は、まだ未完成です。
 何が未完成かと言うと、読み進めれば分かりますが、判別の鍵となる第一脚腿節の写真が足りないからです。僕が飼ってないから撮影出来ていない、借りられていない、というだけでなく、飼っているけど撮影してない、というのもあります(苦笑) 其れは、まぁ、今後追加していくと致しまして……順序が狂ってしまいましたが、この項目は、Poecilotheriaの種判別方法に就いて、です。

 Poecilotheria属のタランチュラは根強い人気を誇る種です。此処最近は、色々な種が出回るようになりました。Poecilotheria formosaPoecilotheria rufilata等は少し前は殆ど出回りませんでした。Poecilotheria subfuscaPoecilotheria striataなどは今でも出回りません。
 初期から出回っていたのは、Poecilotheria属最大種であるインディアン・オーナメンタル=Poecilotheria regalis、そして、それによく似ていると云われるスリランカ・オーナメンタル=Poecilotheria fasciataの二種。
 この二種、外見的によく似ています。Poecilotheria fasciataの方がやや繊毛がピンク色が掛かると言われてはいるものの、脱皮直後と経過して暫くとでは分かりにくい。現在ではCBが主流ですが、過去にはWCも入っていたと言います。その辺の事も、混乱に拍車を掛けたのでしょう。
 此の二種の判別方法として前々から云われて居たのが、

「インディアン・オーナメンタル=Poecilotheria regalisの腹部には白いバンドが入り、スリランカ・オーナメンタル=Poecilotheria fasciataの腹部には入らない」

 というもの。インディアン・オーナメンタル=Poecilotheria regalisであるなら、雄でも腹部にバンドが入る為、非常に分かり易い見分け方でした。
 然し、
「スリランカとして購入したのに、腹部にバンドが出た」「レガリスとして購入したのに、バンドが出ない――」
 という声が一部で上がったので、さぁ大変。一体どうなっているのか? レガリスでも腹部にバンドが出ないものが居るのか? 実はCBの時点で混ざっているのでは……?
 色々な憶測が飛び交ったとか飛び交わなかったとか、色々あるのですが………何にしろ、腹部のバンドで見分ける、という方法に対する信頼性は次第に失われてしまったのです。
 然も、僕自身言われた経験があるのですが、名札が落ちてしまい、店側からして、「此はなんて蜘蛛だろう?」と首を捻り、「たぶん、インディアン・オーナメンタルだよ」という売られ方をされている現実があります。こういう状況ですと、二種が混同され……何処かで混ざる危険性は捨て切れません。

 飼育する分には、其れでも然したる問題はないとしても………繁殖させる上ではそうではありません。ハイブリッドが生じてしまうと、此は大きな問題です。
 とは言え、国内では其程繁殖させた方が少なかったという事とと、国内の例も、繁殖させるに当たって使われた個体が共にレガリスとして販売されていた個体で、かつ腹部にもバンドが出ていたという事もあり(殖やしたA氏とかは、ちゃんと裏側画像を公表してましたでしょ?)……現時点では、それ以前に混ざっていない限りはハイブリッドにはなっていないでしょう。

 とは言え、今後はどうか分かりません。矢張り一抹の不安は拭えません……と、そんな状況が続く時は2003年、PETER KLAASの「Vogelspinnen」という本が刷新され再発行されました。独逸語の本で、過去の版は……持ってたか一寸思い出せないのですが……なんにしろ、その2003版のP104-105に、Poecilotheriaの第一脚による見分け方というのが出ていました。此を見ると、どうやら各種によって、第一脚に入る色彩パターンがそれぞれ異なるようなのです。
 此に倣えば、Poecilotheria regalisPoecilotheria fasciataの判別は比較的――というか、至極簡単に出来ると言えそうです。

 で、その方法ですが、この二種を見分ける場合、第一脚、腿節に入る黒帯の幅が判別のポイントです。
 写真を提示してみましょう。

Poecilotheria fasciata

Poecilotheria regalis


 黒い帯の幅が違いますね、確かに。
 上のスリランカは成体で、下のレガリスはベビー、しかも雄候補なのですが……それでも、警告色が入り始めるサイズならば判別出来る、と言えそうです。
 
 混ざっているのでは疑惑などが浮上していたこの二種ですが……此で見分ければ良い、という処に落ち着いて欲しいものです。

 他にも、Poecilotheria fasciataとしてPoecilotheria striataが流通していた(過去WCで、ですが)という話や、Poecilotheria rufilataPoecilotheria ornataの名で流通していた、という事もあったようです。無論、CBの流通が主流になった現在では、これらの有り得ないでしょうが……稀にWCで入荷することも在るようですからね。
 此らに関しても、第一脚の色彩の入り方で判別出来ますので、見比べてみれば分かるでしょう。腹部側の写真は、今後集められる限り此処に掲載して行く予定です。雌雄で揃えられれば良いのですが………

Poecilotheria fasciata female


Poecilotheria formosa female


Poecilotheria ornata female


Poecilotheria regalis baby


Poecilotheria rufilata male



Poecilotheria striata female


Poecilotheria subfusca juv


Poecilotheria smithi