長くタランチュラを飼育などしていると、或る日、雲の切れ間から差し込む数条の光を見て、「そろそろタランチュラ殖やしてみようかなぁ」等という間違った思考に到達することがあるかもしれません。
こう思わなかったり、思ったけど考え直したという方は、ブリーディング・ローンについて読んでみて頂くことにして、考え直さなかったという非常に間違った人生を此から歩むであろう方はこのまま読み進んでください。
さて、繁殖させるには、コウノトリが必要かと思いきや、残念ながら日本のコウノトリは絶滅決定な感じなのですねぇ。残念なことです。よって、コウノトリに頼む訳には行きません。
此処は諦めて、オスとメスを用意致しましょう。
タランチュラの雌雄判別ですが、幾つか方法はあります。
タランチュラは多くのムカデやヤドクガエルのように外見的に殆ど雌雄差がない等という事はなく、その差異は外見から容易に判別出来るものです。
成体であるならば話は早く、オスは、その触脚の先が、特殊な形になります。先端にサソリの尻尾の先のような器官がつき、普段はこれを曲げているため、丸っこい感じになっています。此は、一度見れば「ああ、此か」と分かるでしょう。
さて、成体でない場合はやや厄介になります。何故成体でもないのに調べなくてはならないのか、と疑問に思う方もいるでしょうが、理由は幾つかあります。まず、オスよりメスの方が長生きであり、飼育者は番となるオスを希望するのでない限りは、メスを普通希望するものです。よって、成体になる前から、オスなのかメスなのか知りたいものなのですよ。メスだと分かれば「ああ、良かったぁ〜♪」という事で、ジャカジャカ餌を与えたりすることが出来ます。
然し、此がオスだった日には、相手を捜す為に奔走したりしなくてはならないし、高い種だったり国内にそうそう入ってこない種だったりすると、「…………あ〜………う〜………」ってな感じになるのです。早くメスだと分かれば安心出来るし、オスだったとしても、少し早く分かればまだ傷は浅かったと自分を納得させられたりするものなのです。
ってな訳で、亜成体、もしくは幼体での雌雄判別方法。
1,腹部を見比べる
一番普通なのがこの方法。腹部の前書肺の間に、メスならば外雌器と呼ばれる器官があります。大抵は出っ張っていて、側面から見たりすると視認出来るのですが、種によっては出来ない場合もあります。
分かり易いのは徘徊性大型種で、分かりにくいのはAvicularia属のタランチュラでしょうか。属によって外雌器が出っ張ってくる頃合いが違って、Lasiodora属やAcanthoscurria属では比較的早いのですが、Brachypelma属やgrammostolaの場合、ちょっと出っ張ってくるのが遅かったりします。大した差ではないのですが。
2,脱皮殻を調べる
幼体では殆ど使えませんが、亜成体以降なら分かり易いのが脱皮殻チェック。腹部を見るのと同じく、前書肺の間、外雌器を見ます。外雌器があるのなら、精子を受け入れるための袋のようなものが、内側にむかって付いています。成長の度合いによって大きさが違うのですが、オスの場合、この袋は全く有りません。
只、此も種によってわかりやすさに違いがあり、Poecilotheria等は分かりにくいです(Poecilotheriaは実物を見ればすぐに分かる)。
3,プロポーションで見切る
亜成体の頃から、雌雄でプロポーションは大分違います。オスは雌に比べて線が細く、種によっては腹部の付き方も細く、第四脚が特に細くなり毛が細かく密に生える傾向があります(例外はHysterocrates属等で、此奴らは脚が細くならない)。数を見ていると、「……なんかオスっぽい……」というのが分かるようになり、大抵そういういやな予感は当たります。当たらなかった場合は雌になって嬉しいから忘れているだけかもしれませんけど……其程順調に行った事はないと思う………
PoecilotheriaやPsalmopoeus、Haplopelma等は雌雄に差が大分あって、大抵が三センチから四センチ程度で雄は成熟し、かつ外見の色彩なども明らかに違います。
他にも、成長の度合いで見切るとか色々あるのですが、経験に裏打ちされたものを文章化しても意味はないと思うで書くのは止めときます。ってか書けませんし。
何故か、タランチュラというのは雌を求めている間は雄が出るのですが、雌が出たからいざ雄を〜と思って購入すると雌になったりすることが多いような気がしますな……そんなことない、というのならそれはそれで良いですが。
繁殖させる上では、血統の違う雌雄であることが重要です。爬虫類や両生類では多少のインブリードでは弊害が出ないとされていますが、タランチュラでは直ぐに弊害が出るとされます。
実際、タランチュラでは雄の方が成長が早い為、自然下では同一卵嚢の雌が成熟するよりも前に雄が成熟するという仕組みから、近親交配が起こらないようになっているようです。
さて、そんなこんなで、別血統の雌雄をタイミング良く揃えることが繁殖第一段階となります。繁殖させたい方は頑張りましょう〜
繁殖あれこれの前に、ブリーディング・ローンというものについて一つ。世の中には繁殖させる気はないけど、長く蜘蛛を飼育したいなぁという方もいらっしゃることと思います。無論それは人それぞれで、別に必ずしも繁殖させねばならんという事はないです。
然し!
世の中には雄を求めている変わり者が結構いるものなのです。レア種や高価な種に限らず、一般的な種についてもそうです。
既に雌を飼育している人のところに、雄になったタランチュラを婿に出す………此がブリーディング・ローンと呼ばれるもので、結構行われていることです。
雌を貸すことも出来ますが、大抵受け渡しされるのは雄です。此は、輸送事故があった場合でも雄ならまだ諦めがつくから、というのと、雄はどうせそのまま飼っていても遠からず死ぬので、渡したまま返さないことが出来るからです。雌だと往復させねばなりません。
貸す時点で、予め生まれた場合に子供らをどーするかという話を詰めて措くと良いでしょう。半分山分けもよし、そんな要らないから十匹程度だけ分けて貰うというのも良し。
尚、雄が喰われて死んでしまったり、殖えなくても「残念でしたねぇ」で忘れるのがマナーですよ。どうせ死んでしまう訳ですからね、雄は。