序
  始めに
  必須飼育設備&用具
  観賞用飼育システム
  ストック用飼育システム
 飼育導入及び管理編
  導入時の諸注意
  餌遣りと日常管理
  芸を仕込んでみよう
 蛸小話
  生物学的小話
  日本近海の蛸
  雌雄判別方法
  蛸及び海洋性軟体動物
   マダコ
   コウイカ

幻・想・熱・帯・雨・林

Octopus & CuttleFish/蛸と烏賊



始めに

 蛸は日本人には大変馴染み深い生き物だとは思いますが、それはあくまで食材として、或いは“キャラクター”としてであり、生きた姿での蛸を見たことのある人というのは、海辺で育った人ぐらいになってしまうかと思います。
 おそらく、蛸という生き物ほど、生きている姿と、茹だった状態や標本の状態との差違が著しい生き物は地球上にいないのではないかと思います。
 それは電源の入っているテレビと、壊れたテレビぐらいの違いがあり、その動き、生態、色彩のパフォーマンス、泳ぎ方などは言葉で表すには難しいものがあります。

 近年、海水魚を飼育する人が増えてきましたが、未だ蛸は飼育難易度の高い生き物とされているようです。
 傷つきやすい上に外傷に弱く、塩分濃度を高く要求する上に水質の悪化に滅法弱く、水温を低水温に保たねばならない。そんな様々な要因が、そんなイメージを作っているのだと思います。

 しかし、タコは、おそらくは多くの海洋性生物と異なり、水槽内の“飼育”が可能な数少ない海洋生物なのではないか、と最近思い始めています。
 この辺のことは長くなりますので割愛しますが、個人的には珊瑚のように飼育不可能な生き物につぎ込むよりは、水槽内での繁殖が見込めるタコにつぎ込むことをオススメします。
 その美しさは珊瑚にそうそう引けを取るモノではありませんし、飼い主を認識するまでになる高い知性やユーモラスな動きなどは、毎日見ていても飽きが来ません。

 飼育が簡単だとは思いませんが、多少難しい方がやりがいもあるというもの。もともと、海水魚の飼育というのはどれも容易なものではないのですから、多少難しくたって大して変わりません。

 海水魚飼育をしている方も、これから海水魚飼育をしようかなぁとか思っている方も、全くそうでない通りがかりの方も、ちょっと考えてみてください。
 哺乳類にしろ爬虫類にしろ昆虫にしろ、蜘蛛形類にしろ、所詮は背骨や外骨格を持っている、“骨のある”生き物。どれも大して変わりません。珊瑚やイソギンチャク、ウミウシやナメクジにも骨はありませんが、連中は大して動きません。

 “骨がない”上によく動く、摩訶不思議な生き物なんて、そうそういるものではありませんよ? 

 もしも、此処を呼んでタコの世界に目覚めて頂けたら嬉しいですねぇ。ただ、真面目な話、ちょっとコストが掛かりますけどね(苦笑)

必須飼育設備&用具

 タコを飼育する上で絶対に必要な設備や用具をご紹介。「本当に必須ですか?」というご質問もありそうなので(笑)、先にお答えしておくと、「一年を通して18℃程度の気温しかない」とか「部屋を24時間クーラーで18℃にする」とか「毎日新鮮な海水を運んでくる」などの代替え手段はあるけれど、現実的でないので無視しています。
 都心部に住んでいる、僕と同じような立場の人には必須、ということで。

◇水槽用クーラー

 タコの好適温度は一般的に低水温とされる温度であり、日本の夏の気温は、普通20℃を軽く超えることを考慮に入れると、間違いなく必須のアイテム。
 閉鎖循環式の水槽用クーラーと、脇に設置して冷却部を水槽に浸すタイプのクーラーと二つあるようです。
 結論から言ってしまうと、後述する観賞用飼育システムには閉鎖循環式水槽用クーラーが必須であり、ストック用飼育システムならば脇に設置するタイプでも可能です。

 何故閉鎖循環式でなければならないかと言うと、タコというのは脱走の名人であり、恐ろしく狭い隙間からでも脱走することが可能だからです。十センチのタコなら、おそらく二ミリの隙間からでも脱走しかねません。
 よって、水槽は完全に密封した状態で飼育しなくてはなりません(エアレーションをしますので、一部空気穴を用意しますが、其処にはスポンジを詰めたりしますので、密封と表現しました)。閉鎖循環式でなくてはこれは難しいので、まだ持っていない方には、閉鎖循環式水槽クーラーを購入することをお勧めします。

 もしも、既にクーラーを持っているけれども、冷却部を水槽に浸すタイプしかない、という方では、「ストック用飼育システム(改・鑑賞タイプ)」でタコを飼育してください。この方法は、後述します。

 閉鎖循環式水槽クーラーを販売している会社ですが、興和システムが販売を終了してしまった現在は、

 株式会社レイシー
 株式会社ニッソー
 ゼンスイ株式会社

 の三社が有名です。というか、これ以外は僕は知りません(^^;) 他の会社のものでも、とにかく性能が良ければ問題はないです。
 僕はニッソーのものが安かったので使っていますが、これがなんとも……水温設定が20℃までしか出来ないんですよね。60cm水槽に繋げて20℃に設定しておくと、動いて水温が18℃ぐらいになるので気にしていませんが、20℃以下まで設定出来るなら、レイシーやゼンスイのものが圧倒的にオススメです。
 クーラー選びのポイントは、必ずワンランク上のものを選ぶということ。タコ飼育では妥協するとタコが普通に死にます。選び方ですが、冷却熱量で考える方法が普通です。

 公式はレイシーとかのサイトにもありますが、

 冷却熱量(Kcal/h)={(全水量×温度差/24時間)+熱損失}×1.3

 です。
 熱損失とは、水槽周囲の熱源、蛍光灯であるとか、濾過ポンプなどの定格出力(W ワット)を合計し、0.86掛けた数値だそうです。何故に0.86なのかは僕も知りません(^^;)
 全水量ですが、60cm水槽では54L、90cm水槽では150Lになります。

 例えば、60cm水槽一つの場合、外気温が25℃の時、18℃まで冷却することを想定します。
 蛍光灯は30Wのものを一つ(タコは光をあまり好みませんし)、水槽からクーラーへ水を循環させる為にポンプ25Wのものを一つ、外部フィルターのモーター部が25Wのものを使用しているとしましょう。

 熱損失=(30+25+25)×0.86=68.8

 となります。よって、

 冷却熱量={(150×7/24)+68.8}×1.3=133.315

 一番安くても300kcal/hあるので、どれを購入しても問題ないことになります。
 しかし、言うまでもなく水槽用クーラーは大変高価です。一つ購入し、後々まで使いたいものです。特に、ストック用飼育システムには大きなケースを用いるので、強力さが必要になります。そのことも考慮に入れ、選んでください。
 ……性能を見てみると、なんかやけにレイシーの水槽用クーラーは高性能ですねぇ。あまり値下がりしませんが、結構良いのかも。次に買う時は考慮に入れてみましょうか……

 もう一つ、水槽用クーラーはかなり五月蠅いです。クーラーの室外機が中にあるわけですから(苦笑) そして、夏場は部屋の温度を上げてくれるので、部屋のクーラーと二重でつけねばならなくなり、電気代が恐ろしいことになります。残念ですが、そういうものなんです……北国の方には、なんら問題のないことなのでしょうけど。

◇水槽

 タコでなくても水槽は必須でしょう。金魚鉢だろうがなんだろうか、水を張るなら水槽の一種です。
 タコを飼育する上で個人的に一番オススメなのは、所謂黒ブチの規格水槽と呼ばれるもの。僕は60cm規格水槽を愛用しています。縁なしの水槽は、見栄えは良いですが、タコの飼育には不向きです。とはいえ、不可能ではなく、「ストック用飼育システム(改・鑑賞タイプ)」で飼えますが、改だけに観賞性はイマイチです。

 何故規格水槽が良いのかと言うと、単純に密閉する時に楽だからです。
 全面のガラスを切ってもらい、蓋をすると、端の二つの穴以外は簡単に封じることが出来ます。その上、この二つの穴は片方は外部フィルター及びクーラーへの吸水口に、もう一方は排水口になるわけです。円形ではなく、横に線の入った鍵穴のようになっているので、この脇からヒーターや水中ポンプ、温度計のコードなどを入れることも出来ます。
 隙間をビニールを丸めたものや、スポンジを切ったもので埋めれば完璧。安価でお手軽に、密閉水槽を作ることが出来るわけです。

 オマケですが、水槽や用具、砂などは、硫酸銅などの薬品を使ったものは使わない方がいいようです。僕はいままで、こうした薬品を使ったことが一度もないのですが、無脊椎動物は重金属に極度に弱い為、一度でも使用したものは使わない方が無難だとのこと。使ったことがある人は、自己責任でそうした水槽を使うかどうか決めて下さい。

◇ミネラル補給剤

 タコが長らく水槽での飼育が不可能だと言われてきた理由の一つは、人工海水で飼育するとすぐに死亡してしまうことにあったと言います。
 近年、高グレードの人工海水が開発され、漸く、これを使用して飼育することが出来るようになりました。
 海はミネラルの宝庫と言いますが、タコはこの海水中のミネラルを利用して生きています。人間は食物を通して間接的にこのミネラルを補給していますが、タコは海水から捕るわけです。
 そうしたミネラルのなかで欠乏が即死につながるものが、バナジウム。タコの呼吸において、バナジウムは補酵素的な役割をすることが近年明らかになったそうです。
 バナジウムが欠乏すると、タコは水中に豊富に酸素がありながら、酸欠して死亡してしまいます。

 此を補う方法は、定期的に人工海水を全換水することですが、コストが掛かること、タコは水温や水質の急変に大変弱いことから、あまり推奨できた方法ではありません。特に、僕はバクテリアを活着させた珊瑚砂と濾材を併用し、一年以上の無換水で海水魚を飼育しているので、あまり海水魚での水換えに慣れていません。

 そこで、Marfied社の、エッセンシャル・エレメントなどの、ミネラル補給材と呼ばれるものをオススメしておきます。本来、珊瑚などに使われるものですが、これを一週間から二週間に一度補給します。長い時は一ヶ月に一度で良かったこともありますが、バナジウムが水槽中からどうやって減っていくのか、そのメカニズムがイマイチ分からない以上、短い間隔で定期的に補給すべきだと思います。

観賞用飼育システム

 観賞用飼育システムとは、鑑賞に主眼を置いてタコを飼育するシステムです。タコのようなヘンな生き物を飼育する以上、普通は鑑賞用途を高めるのが当たり前であり、わざわざ銘打つ必要もないかと思われますが、ストック用飼育システムというものを考案した関係上、従来のものを観賞用、と呼称することにしました。

 このシステムに関しては、既に水槽の部分で少し触れていますが、規格水槽を使うのがオススメで、ADAなどの縁なし水槽では難しいです。
 勿論、アクリル水槽で完全に自作するという手もありますが、最初からそこまでやる方がいるでしょうかね?

 普通に珊瑚砂を敷く訳ですが、砂は細かめのものが良いです。どうも、荒い珊瑚砂だと肌になじまないようですし、ワモンダコなどは砂に潜って安心する習性があります。だいたい、5センチぐらいは敷いてあげたほうがいいでしょう。
 飾り珊瑚は、タコの体を傷つける懸念が在るため、あまり入れないようにします。海では問題のない傷も、水槽という閉鎖された空間では致命的になることがあるからです。また、コウイカなどの飼育に際しては、絶対に入れてはいけません。

 あとは蛸壺。タコのサイズに合わせて、蛸壺や二枚貝を入れてやります。「ちょっと小さいかな?」というサイズぐらいがよく、大きすぎると落ち着いてくれません。

 照明はあまり要らないのですが、やはりたまには見て楽しみたいもの。ただ、あまり明るくないタイプのものを使用してください。

 最後は、外部フィルターなどの吸水口。此処には必ずスポンジを使用します。少しの隙間だとタコが吸い込まれたり、自ら中へ入っていこうとしてしまいます。五ミリくらいのパイプなど、タコにとっては水槽が全開になっているも同然ですから、スポンジフィルターを間に入れるのは必須です。

ストック用飼育システム

 普通の人にはまずご縁のないであろうシステム。
 簡単に言うと、大きな水槽の中に、小さなケースに入れたタコを入れて飼育するということです。
 水槽用クーラーが閉鎖循環式ではなく、冷却部を入れるタイプのものの人は、擬似的にこれになります。60cm水槽などに、大きめのプラケなどを入れ、その中でタコを飼育する訳ですね。ただ、タコのサイズによってはプラケでは脱走してしまいますので、ハンズなどで販売されているアクリルケース(上が開放型のヤツ)の側面に一ミリ程度の穴を沢山開けたものを、逆さまにして、上に錘を置く、という方法などもあります。

 この方式は、繁殖させる為に複数の個体をストックしなくてはならない場合を想定して考案したものです。衣装ケース(大型水槽でも構いません)に水を張り、それを外部フィルターとクーラーで冷却します。冷却効率を上げる為に、衣装ケースには断熱材として発泡スチロールなどを巻きます。

 後は、クワガタ用ブロー容器に小さな穴を開けたものにタコを入れ、真っ黒なアクリル板で仕切った小部屋に容器を入れます。仕切るのは、タコ同士がお互いに見えなくする為。タコは大変視力が良い上に神経質なので、この飼育方法ではお互いを視認出来なくすることが必須条件です。同時に、小部屋ごとに水が滞らないように、排水はシャワーパイプで上から行うようにします。
 場合によっては、チューブで小分けにして各ケースにそれぞれ水を流し込むことも考えたのですが、生じる対流によりタコが感じるストレスが未知数ではないかと。

 デメリットは、一匹が墨を吐いて自爆した場合、連鎖的に周囲の個体まで死亡してしまうであろうこと。しかし、個人レベルで十匹以上のタコを同時に管理するには、この方式が一番無難ではないかと思われます。当然ながら、クーラーや濾過装置は、それなりに能力の高いものが要求されますが。

 とはいえ、このシステム、まだ稼働させたことはありません。ケースや仕組みは一通り作り終え、対流実験などをして水が滞らないようにはなっています。
 この冬、タコが入手出来た時に使ってみる予定ですので、続報をお待ち下さい。




 飼育導入及び管理編

  導入時の諸注意


 タコの飼育に際して水温の維持、水質の維持以上に大切なことは、最初に導入する時です。輸送時に暑くしないことは前提条件なので省きます。
 いよいよ家に持ち帰ったタコを水槽に移す時――この時にしくじると、翌日どころか、二時間後ですらタコは生きていません。

 タコが入荷する時というのは、大抵、塩分濃度がボーメ計で3.0ぐらいの高めの濃度で来ます。この濃度というのは水槽内では雑菌が発生しやすい濃度で、あまりオススメではないのですが、タコを低い濃度で飼うことはまず不可能なのであきらめるしかありません。水合わせ風景

 よって、水槽の方の濃度を、つれてきたタコの入っている海水濃度に予め出来る限り近づけ、その上でタコに対して水合わせを行います。
 水合わせの方法ですが、小さなプラケにタコを封入し、其処へ一時間半以上の時間を掛けて水が倍になる程度の速度で水合わせをしましょう。一時間だとやや急変なきらいがあります。また、この時に酸素量が少なくならないよう、ちゃんとエアレーションも欠かしてはいけません。

 この時、水温が急上昇するとやはりそれだけで死ぬので、高くても20℃は超えないように努力しましょう。

 水合わせが終了したと思ったら、プラケを斜めにして中身の水を捨て、タコだけを素早く水槽へ移動させます。
 長期間の輸送の間に、もともとタコが入っていた水は極度に汚れているので、水槽にいれると水質が変動してしまい良くないからです。 この辺の、「そんなところまで気を遣わなくても」というところまで気を遣うのが、タコ飼育のポイントですので、気を抜いてはいけません。 

  餌遣りと日常管理


 魚であれ爬虫類であれ蟲であれ、餌を与える時というのは何かを飼育している上で楽しい瞬間の一つであると個人的には思うのですが、如何でしょうか。
 タコもその例外には漏れず、というか、彼らの食事は見ていて飽きません。八本の腕を巧みに動かし、餌を絡め取る姿を見ていると、彼らが優れた捕食者であるという事実に気づかされます。柔らかな体と滑らかな動きからは想像も出来ないほどに、その肉体は強靱なようです。

 さて、タコの餌として何が使えるかと言うと、タコに嗜好性がよく、かつ水を汚す可能性が低いものがベストということになります。

・スジエビ
 淡水産、海水産がありますが、出来れば海水産が良いです。
 大型釣具店で売ってます。売って無くても注文すれば購入出来ます。

・ザリガニの子
 金魚屋、熱帯魚屋、釣具店で売っている。サイズが余程小さくないと、食べようとしません。
 反撃してタコが傷付くおそれがあるので注意。ハサミは取っておく方がいいようです。欠点は、捕食される前に死んだ場合、何かをはき出すのか水が汚れること。

・活アサリ、活シジミ
 生きているのを割って、軽く塩水で洗って与えます。割るのに少々テクニックがいります。ナイフなどで割ろうとするのは危険なので、ナイフ使いに自信がないなら已めておくべきでしょう。
 小さいのなら力が弱いから、口を開けた時に指を挟んでべり、とやると良いです。パックになっている物は、鮮度が心配なので試していません。

・甘エビ刺し
 ちょっと高めですが、嗜好性は悪くないです。塩水で軽く荒い、それからピンセットで近づけてみてください。
 ただ、こうした餌は飼育者になれていないと食べないことが多いので、最初からこれを使うのには無理があります。

・メダカ
 海水に入れても、一般的にメダカの名で売っている……えーと、なんとかという奴は、簡単には死にません。生きている間に捕獲して食べるようですが、死んだものには興味を示さないのが問題。
 海水のものに、淡水産の魚の餌は良くない、ということ以上に、死んだ場合に水を著しく汚すのでオススメできません。どうしても他のものが手に入らないという時に使い、入れて十五分ほど水槽から見えない位置に移動し、戻ってきて見て、食べていないすぐに取り出す、という風にやると良いかと。


・磯のカニ
 本州以南の大型釣具屋で購入することが出来ます。
 常時置いてあるものではありませんが、注文すると購入出来ます。
 タコはカニが大好きでして、後述する瓶開けは、カニの場合が一番良いので好都合。嗜好性が良い為、食べ残しが発生し難く、故に水質悪化の原因になりません。なにより、水併せをしておけば、食べない場合でも死ぬことがないので、邪魔にならないのが素晴らしいです。情報提供のあーす君さんに感謝。
 

 このほかにも結構いろいろ食べます。タコってのは実際色々食べているものです。ただ、それは飼育者に慣れてからの話で、慣れるまでは、生き餌中心でやるべきです。
 タコは結構神経質で、最初の一ヶ月ぐらいは飼育者に慣れない個体もいるようです。また、餌を採るのが上手い個体もいれば、下手な個体もいるようですね。

 やはり、僕はカニがオススメですね。
 何の餌を与えるにしろ、多少食べ残しやカスが発生します。カニの殻などがそれ。
 それほど気にする必要はないのかもしれませんが、日常管理の一環として、食べかすはスポイトやサイフォンで吸い出しておくと良いでしょう。水質をよく維持するには重要です。

 他に日常の管理として挙げられるのは、水温と水質をかならずチェックすること。毎日なんて……と思うかもしれませんが、最初の一回目ぐらいは毎日計測して下さい。そのうち、システムが完全に軌道に載れば、水質が良いか悪いかが勘で分かるようになる筈です。

 もう一つは、出来れば一度もあってほしくないことですが、タコが墨を吐いた時は速やかに外部フィルターを止め、濁っていない部分の水をバケツに入れタコを移動、墨のまじった水はすべて換え、外部フィルターに墨が吸い込まれてしまった場合はフィルターを塩水で洗浄します。
 タコを驚かせたりしなければ吐きませんので、日常的に注意するのは大きな音を立てたりしないなどでしょうか。タコが墨を吐いた後、放置すると、翌日には普通に死んでしまいます。

芸を仕込んでみよう


 芸って言っても、大したものではなく、瓶を開けるというだけのものですが。
 蛸は目が良いので、硝子瓶の中のカニをエサとして認識します。が、開け方を知らない蛸は、往々にして瓶を開けることが出来ません。

 然し目の前で瓶を開けるところを”見せてやる”。空けて、エサをいれて、蓋をしめ、再び蓋が外れるということを見せてやると、蓋を開けることが出来る様になる、というもの。

 ま、見せずとも最初からうねうねやって空けてしまう個体もいるそうですが。
 一度覚えるとその後は普通に空けるようになるそうです。蛸の力は結構強いので、マダコぐらいになるとジャムの瓶とかで試せます。勿論、少しゆるめにしてやらないと幾ら難でも無理ですけども(笑

 生物学的小話

 タコは何の仲間でしょうか。
 タコは海に住んでいます。水揚げの際には、魚介類に分類されますよね。まあ、鯨とかも水揚げされると魚介類量に含まれるそうですが、この際それは無視しましょう。さて、タコは生物学的に何の仲間なのか。
 専門用語だと、軟体動物門・頭足綱・二鰓類・八腕形目というらしいです(さらに、何々科何々種)。ご親戚はイカ。二鰓類の仲間に、イカが含まれます。頭足綱でくくると、アンモナイト、オウムガイなんかが此処に入ります。更に軟体動物門では、巻き貝、二枚貝などの貝も入ります。

 つまり、魚と違い、貝に近い仲間な訳です。陸だと、カタツムリとかそのへんが親戚さんです。
 しかし、目があり、腕を持ち、知能を持つ……軟体動物の中にあって、一際変な感じで突出した存在だったりします。

 ところで、ATOKには、「頭足類」という言葉はありますが、頭足目という言葉は在りません。この頭足類、というのは一般名であり、正式名が頭足目、となります。タコは、軟体動物門・頭足綱・二鰓類・八腕形目、というのが正式名称になります。下に続くのは、科、属、種、亜種となります。世界標準の二名法ってやつです。
 一般的に、目やら綱やらというのは使いませんからね。頭足目、ではなく、頭足類という呼び名が浸透してしまったのでしょう。今後、このサイトで頭足類、という単語が使われた場合、それは一般名であり、正式名称は頭足目である、と思ってください。

 日本近海の蛸

 タコは全世界で、255種居ると言われています。未だ深海は未知の世界。まだ見ぬタコが居るでしょうから、これがすべてではないでしょう。ミズダコでも、千メートル以上の水深に潜ることが出来るといいます。深海にはいろいろなタコがいるのでしょうね。
 もとより、タコというのは、全然生物学的分類が進んでいない分野であるようです。その理由は、生活圏が海の中であり、調査が非常に難しいこと、生態が不明な部分が多いこと、硬質部分は非常に少なく、硬質部分に系統分類を頼っている現在の分類学では分類し辛いことなどの理由がある模様。あー、タコはやっぱりミステリアスですね♪

 タコは、大きく分けて、浮遊性、底生性があり、更に、表層浮遊性、中層浮遊性、低層(深海)浮遊性と、浅海底生性、深海底生性が居ます。陸上の水槽で、個人レベルで飼育出来るのは、浅海底生性と考えるべきでしょう。実を言いますと、この底生性ってのは、タコの中では少数派で、ずーっと泳ぎっぱなしの浮遊性のタコというのが、実はタコの中では多数派なんです。意外ですねぇ。

 NHKスペシャル「海」で、コバルトブルーの瞳をした「コウモリダコ」というのが出てきたのを御存知でしょうか。一見、イカのようにも見えるあのタコは、この分類では、深海浮遊性のタコに分類される訳ですね――――が、此処にはコウモリダコの名前が見あたりませんな。あー、そう言えば、あれは正確には八腕形類ではなく、コウモリダコ類なのでした(^^;) しかも、英語だと、確かVampire Squidだった気がするな……結局、どっちに近いのさっ!?

 このタコイカ(勝手に造語)、円らな瞳はラピスラズリを思わせる蒼碧で美しく、肌の漆黒ベルベットの質感がとても綺麗なんですが、超高圧下の深海から地上に揚げてしまうと、ふれるとでろでろと崩れてしまうのだとか。それから、結構匂うそうです。これは深海生物の多くに言えることなのですが、潜行と浮上を、体内のアンモニアを気化、液化調節することで行っているからだとか。原理はよくわかんないですが。巨大イカなどは、捕まえてもアンモニア臭がきつくて食べることは無理みたいです。食べられれば、食糧問題解決なんですけどねぇ。クジラなんかは平然と喰っているみたいですが。


 話を戻しまして、世界には255種ですが、日本近海に絞りますと、なんでも10科20属56種のタコ類が棲息しているそうです。ちょっと前までは40余種と言われていましたから、まだまだ開拓の余地ありかもしれません。
 勿論、食卓に上る可能性のあるタコはこんなにはいません。
 マダコ、イイダコ、テナガダコ、ミズダコ、マダコ、ヤナギダコ、と言った種類ぐらいなようです。
 一般的にタコと言った場合、ミズダコかマダコになると思います。たこ焼きのたこは。

 タコを飼う場合、入手方法は二つ。
 自家採集か、ショップ購入か、です。以下に、可能と思われる種類を並べてみます。残念ながら、写真はありません。版権とか色々あるんですよっ! スキャンして載せちゃえば、まあ全種コンプリート出来ますが……

 ・イイダコ(自家採集)
  最大で十数センチぐらい。胴には黒い筋があり、傘膜の上には金色の眼状紋がある。
  食用。近所のスパゲッティ屋に「イイダコのピリ辛パスタ」なるものがあり、五、六匹入っている。からいので味はよくわからないが、歯ごたえがある。
  砂浜の中に潜っていて、達人は素手で捕まえるとかテレビでやってたけど、よく覚えてない。採集は出来るんだろうか?
  ショップに出回ると本にはあるが……? 残念ながら、見たことはない。「イイダコ入ったら教えて下さい」とか言ってもまず無理。
  基本は、「タコ入ったら教えて下さい」と、懇意にしている店にお願いするか、足げく、色々な店を巡るしかない。
  妊娠すると長楕円刑の卵を持ち、これが一杯につまった躰を見ると、まるで御飯粒が詰まっているみたいに見える、というところから、“飯蛸”と呼ばれるのだとか。

 ・テナガダコ(ショップ・自家採集)
  普通、熱帯魚ショップに「タコ sp」として入荷していたら、これかと思う。っていうか、タコは全部「sp」扱いですから……これか、ワモンダコでしょう。色などから判断するに。ただし、テナガダコにも、茶色系のテナガダコ[Octopus minor]か、青白色の斑が入るサメハダテナガダコ[Octopus luteus]の二種類がいる。
  15cm〜20cm。色は白に近いグレーが基本で、黒い紋が入る。が、ハッキリいって僕も見分けられるほど見てはいません。写真も少ないし……雑誌や書籍のものを載せると、法に触れますしねぇ。うーむ。

 ・ミズダコ(自家採集)
  東北は北、北海道あたりからベーリング海、北米西岸沿いの冷たい海に棲む。
  ショップにはまず入荷しないが、港や寿司屋では生きてる姿に出会えるかも?
  酢蛸にされるタコの代表格。だが、全長が三メートルとかになるらしいので、これを飼うのは無謀だと思う。そんなコトする人いないか……
  家の近くの寿司屋の水槽に、全長六十センチぐらいのタコが入っていて、「あれ、譲って貰えないだろうか」と真剣に考えたが、一緒に歩いてた母親に看破されたのか「駄目よ」の一言で玉砕。おそらくミズダコと思われる。みた感じ、赤黒い色をしていたような……ひょっとしたら別の種か?

 ・マダコ(ショップ・自家採集)
  タコ・オブ・ザ・タコ。なんじゃそりゃ。
  タコの中で最もおそらくメジャー。普通に食用ならばこれ。茹でると赤いけど、生きてる時は別にいつも赤い訳ではない。白地に、赤褐色の色が入り、黄色い斑紋が散らばることもある。とはいえ、タコの色ほどいい加減なものはないのだが(バックにすーぐ溶け込むから)
  Octopus vulgarisというのが学名。直訳すると「普通のたこ」だそうです。普通ってなんだ!? 吸盤が二列あることですか!?(どうでも良い話だが、日本近海のタコというと吸盤が二列であるが、全てのタコがこうな訳ではない。吸盤が一列のタコってのもいる。分類学者にとっては、吸盤が何列か、どの腕に何個在るか、というのは重要な問題なので、タコの足の吸盤の数を適当に描いちゃいけません) 
 成長しきると、全長が60cmを超えるので、普通の水槽では飼えないかと思う。けど、結構ショップでも入荷すると聞くが、未確認。途中まで育てて、大きくなったら茹でて食べられる、という剛の方は挑戦してもいいかもしれない(例えば僕のような(爆))。
  本によると、人に良く馴れ、手渡しで餌を食べるまでになるが、隙間から良く脱走するそうなので、注意が必要。水質悪化、高水温に弱い、とある。まあ、水温悪化に強く、高水温に強いタコっつーのも聞いたことはないけど。

 ・シマダコ(自家採集)
  日本では紀伊半島以南や小笠原諸島沿岸に分布。NHKなどで放送している珊瑚礁で見掛けるのがこのタコだそうだ。
  全長は一メートルに達する。刺激すると胴や腕にある、白縞や斑紋が青白く燐光を発するというが、テレビでも観たことがない。観たいなぁ。
  結構沖合にいるみたいなので、自家採集もかなり難しいか? スキューバとかで捕まえるぐらいの剛の方はオーケイかもしれないが……おそらく、水質に無茶苦茶五月蠅いと思われる。

 ・ワモンダコ(自家採集・ショップ)
  四国以南の暖海に棲み、沖縄や小笠原でとれるタコ。熱帯太平洋全域に分布。たこつぼで採れると聞くけどね……骨董市では、ワモンダコ用のたこつぼ、なるものが販売されていましたが……
  全長70cmという本もあれば、30cmという本もあり、タコに関しては「本って信用できないのでは?」と思ってしまった理由を作ってくれた困りもの。たぶん、70cmになるんだと思う。ちょっと60cmでは飼いきれないかな……90cm水槽は必要になるかと。
  本では、最も飼育が簡単なタコの入門種の一つ(もう一つはテナガダコ)と書いてあるが、そもそもタコを飼う人なんか滅多に居ないだろうから、入門種も何もあったもんではない、と管理人は思うが、いかがなものか。
 文献では、頭に対して、腕が長く吸盤の数も多い。白斑が規則正しく腕に並び、傘膜の上に不明瞭な眼状紋が有るのが特徴、らしい。これ、写真で確認しました。不明瞭、と言うよりはかなりはっきりとしていて、「蛾みたく、この紋様で、目をつくって相手を威嚇するんだろうか?」という感じです。写真を、サイトに取り込んで貼れないのが残念です……

 ・ヒョウモンダコ(ショップ)
  全長十センチ程度の小型のタコ。産地により、20cm弱になるものもいるらしい。
  手元にある何冊かの海水飼育の本の中には、タコの飼育法というのは数える程しか載っていない。そのうちの一冊は、ヒョウモンダコとテナガダコの飼育法が記載されているのですが、その直ぐ横で、「Q:飼育しない方がいいタコはありますか? A:ヒョウモンダコです……」という下りがある。一体、どうすればいいとゆーのか。
  ヒョウモンダコ、と名の付くタコは、何でもインド洋(インドネシア・フィリピン)とオーストラリアのもの、合計三種類が入荷するそうな。
  英名はブルーリング・オクトパス。
  熱帯産は黒と蒼いリング模様だけど、オーストラリア産などの温帯産のタイプは青が少し暗く、虫食い状になるらしい。
  黄色地にブルーもリング模様がたくさんあり、非常に美しく、ちびっこくて可愛い。
  だが、このタコは非常に強い咬毒を持ち、死亡例も存在するらしいので、安易な飼育はお薦めしないです。オーストラリアでは海岸に、このようなタコを見かけた場合は刺激したりしないように、という注意書きがあるところもあるそうな。
  っていうか、この記事が原因で死者が出たりしたら流石に哀しいんですが……他に咬毒があるとされるのはサメハダテナガダコだそうですが、まあこれの毒が何なのかは不明です。僕も飼ってましたね〜(苦笑)

  ショップに入ったのを観た時は、店員さんは「咬まれてもびりびりするだけだよ」とか言っていましたが、どれぐらいの時間咬まれたのか、もかなり影響すると思うし、やっぱり止めた方がいいと思うです。

 ・マメダコ
  非常に小さい、全長10cm程度のタコ。ただ、ショップにはあまり入荷しないと聞く(店員さん曰く、見たことない、とか)。
  本には入荷すると書いてあるんですが……まあ、日本の何処か、というのも影響するでしょうね。
  小型種である本種は、あまり脱走しない、と聞くが、本によっては脱走するので蓋をしろ、と書いてある。個体差もあるわけで、逃げた場合の責任を考えると、データがなくても蓋をしろ、と書くのかもしれない。でも、逃げてしまった時哀しい思いをするかもしれないから、やっぱり蓋はしましょう。


 ・サメハダテナガダコ
  青白い紋が入る特徴的な小型のテナガダコ。特徴的なせいか、採れる場所によるものか、名前が限定されて入ってくることが希にある。この種も結構強い咬毒を持つようなので、扱いには注意。致死性かどうかは不明。

 雌雄判別方法

 雌雄の判別が付きにくいのは魚類全般に言えることです。
 ひよこ鑑定士なんて仕事がありますが、アジアアロワナとか肺魚とかの外見からの雌雄判別法を見つけたら、狂喜乱舞するアクアリストが少なくないであろうことは想像に難くありません。
 サメやエイのように、区別できる魚類の方が稀ですよね。
 漫画「モジャ公」にもありますが、見慣れていない生物の違い、というのは分からないものです。確かに見比べれば違う、でも、一匹一匹の違いを見切るのは、HUNTER×HUNTERのゴンでもない限り無理です。多分、何かしらあるんでしょうが……
 では、タコは外見から確実に容易に見分ける方法があるか?
 幸運な事に、答えはイエス、みたいです。
 タコには八本の腕がありますが(あれは生物学的には足で、頭の上に足があるから頭足目、というのだそうです。が、その機能から、腕と呼ばれています)、その右第三腕の先端を見てください(背中側、つまり色の黒い方から、第一腕、腹へ向かって二、三、四腕の四対です)。
 オスである場合、この腕が、他の七本の腕と異なり、吸盤が無く、かつ形が変わっています。
 種によって違いますが、ヘラ、筒、或いは紐のようになっているそうです。
 なんでも、これは「交接腕」と呼ばれるものだそうです。(タコの種によって、何番目の腕かは変わるようです。テナガダコの仲間は、右第三腕で、長さ自体が短いようです)
 この変形した先端部の基部の裏側(吸盤)には、乳頭という突起があるのが特徴で、この乳頭から傘幕先端まで、腕の外縁に沿って溝が走っており、これを“精莢溝”と言います。ここを滑り、オスは精子の封入された“精莢”と呼ばれるカプセルを、メスの体内に挿入する、という、一風変わった精子の送り込みを、タコは行います。(“精莢”はタコだけのものではなく、ムカデなども持っているようですね)。
 “精莢”の中には、タンパク質で出来たバネのような代物、精子、そしてセメント体と呼ばれるものが入っており、何かに触れると、この“精莢”は破裂して精子をばらまきます。この構造は、クラゲの毒胞のそれに似ていますね。
 つまり、刺激してはならないが故に、“精莢溝”の中を分泌液と共に流すのであり、相手の躰の中で確実に破裂させる引き金を引く為の乳頭であり、海流に流されない為のセメント体という訳です。なかなかに凝った出来をしているものです。
 この受精法、頭足目及びイカの類がするそうですが、一般の体内受精生物が行うそれとは異なる方法を取る為、“交尾”と区別して“交接”と呼ばれるそうです。
 まあ、単純に、足の先端が、八本とも同じならメス、一本妙なのが混じってればオス、と判断すればいいかと思います。 取り敢えず、雌雄の判別が可能になったので、水槽内繁殖を目指したい所ですね。(アジアアロワナレベルで難しそうだが……(汗)

 入手可能だった蛸及び海洋性軟体動物

 タコやイカ以外にも、海洋性軟体動物には面白い生き物が沢山います。ただ、その中で水槽内での飼育が可能なものと言うと限られてきます。
 珊瑚は水槽内での飼育は不可能ですし、ウミウシの類もほぼ不可能だと思われます。
 軟体動物で簡単に飼育出来るのは………イソギンチャクぐらいだと思います。それでも、種が限定されますが。
 今まで飼育した海洋性軟体動物の中で、長期飼育(一年以上)が可能だったものを並べてみました。


・ムカデウミウシ

 ウミウシの類は何種か飼育しましたが、どれも食性が分からず、長生きをさせることが出来ませんでした。ライブロックが入っている水槽でもそうそう長生きはしてくれません。彼らが極端に偏食だからでしょう。故に、ウミウシの類は大変美しい種が多いのですが、どれも飼育に向いていません。
 そんな中で、唯一長期飼育が可能だったのが、ムカデウミウシ。
 ウミウシなので脚はありませんが、その姿がどことなくムカデに似ていることからムカデウミウシの異名を持ちます。
 ウミウシの中には、珊瑚のように共生藻と呼ばれるものを体内に持っているものがおり、ムカデウミウシもその一つです。メタルハライドランプを当てるか、窓際に水槽を置いて飼育することで、半年ほど飼育した覚えがあります。一年には満たないので此処に書くのは憚られますが、一応書いておきます。なお、強い光を当てつつ、水温を21〜23℃程度に抑える為にクーラーを使いました。
 ちなみに、ライブロックを入れた水槽だったので、水槽内は苔や微生物が微妙に殖えて、見た目としては微妙な水槽になりました。或いは、そこで殖えていた何かを食べて長く生きたのかもしれません。

 これ以外のウミウシは更に難しいと思います。一ヶ月以上生かした記憶があまりないです。近くに海がある場合はまた別ですし、水槽内に苔が発生している場合、その苔をウミウシが運良く食べてくれれば生かしておくことが可能ですが、綺麗な種に限って苔などはあまり食べてくれません。海綿を飼育していた時、その海綿を食べてウミウシが生きていたことがありましたが、海綿を食べ尽くされてしまい、その後餓死してしまいました。海綿大量に繁殖させられるノウハウでもない限り、やはり難しいと言えるでしょう。

・イソギンチャク

 イソギンチャクの幾つかは長期の飼育が可能です。僕が飼育したものは、クマノミ飼育の時のシライトイソギンチャク(パープル)と、グリーンカーペットと呼ばれるイソギンチャク。
 どちらもカクレクマノミの水槽に収容しており、強めの光と24℃程度の水温を維持しました。イソギンチャク飼育の基本は、イソギンチャクが安心出来る場所を作ること。彼らは気に入らない場所に入れられてもすぐに移動してしまいます。ライブロックなどを組み合わせ、光の当たるところ、当たらないところ、水流の強いところ、弱いところなどを用意して、イソギンチャクに選ばせます。
 また、カクレクマノミと共生するタイプのイソギンチャクは、クマノミと一緒の時の方が調子が良いようです。
 餌にはクリル、イカの切り身、アサリなどを上に載せると飲み込むのですが、これが見ていてなかなか楽しいです。カクレクマノミは繁殖まで行った唯一の海水魚なのですが、イソギンチャクがあった方がクマノミも落ち着くようです。
 ただ、イソギンチャクは水質の悪化に大変弱いことと、ミネラル分が欠乏すると急速にしぼんでしまうので、ミネラルの補給、或いは海水の全換水が必須になってきます。


・ミミック・オクトパス

 入手は可能だったのですが、金銭的な面で購入出来なかったという種。→Asahi.Com電脳水族館
 バリ島周辺などに生息し、一時期話題になりました(一部で)。僕が最初に見た時24000円という金額で、とても手が出せませんでした。現在はあまり入荷していないようですが、やはり一万後半のようですね。
 その名の通り擬態することで有名で、イソギンチャクやカレイなどに擬態する姿が面白いです。バンド模様が綺麗なタコ。もう一度、実物を見てみたいタコです。

・ヒョウモンダコ(ブルーリング・オクトパス)

 上でも紹介しましたが、実は僕が一番匹数飼ったタコでもあります(爆)
 ただ、冗談抜きで致死性生物なので、飼育はオススメ致しません。カラータイプがあって、ブルーのリングが虫食いになっているものとなっていないものがおり、後者の方がより黄色が濃いです。また、威嚇時にブルーになる面積が多いです。
 これはどうやら生息地の違いのようで、オーストラリア近海のものが前者、インド洋周辺のものが後者などと言われていますが、確証はいまいちです。

・オウムガイ哀惜のメモリー

 パラオオウムガイとして、何度かオウムガイが日本に輸入されています。 値段は18000〜13000円ぐらい。普通、15000とかですね。
 僕も飼ったことがありますが、おそらく、水質の変化に強い為、タコよりは飼育が容易ではないかと思われます。ただし、16℃まで水温を下げられる環境が必須です。
 外見からの雌雄判別が可能なこともあり、もう一度飼育してみたいなどと思ってしまう生き物です。
 ただ、現地で乱獲されていて数が激減しているとの話も聞きますので、飼育しない方がいいのかなぁ……と思ってしまいもするのですが。ちなみに、オウムガイは殻を見ると種の判別が可能だそうです。
 殻の写真、色が白っぽいですが、水に濡らすと紋様が赤みがかった茶色に浮かび上がるんですよ〜。

・サメハダテナガダコ

 人間に効果のある強い咬毒を持つタコの一つ。表面に青白い紋が入って美しく、15cm程度と小型です。伊勢湾周辺でとれるらしいと耳にしましたが、どうなのか。複数入手したにもかかわらず、繁殖させられなかった痛恨の種でもあります。

・マダコ/Common Octopus

 Octopus vulgaris。学名からして“普通のタコ”、英名もそのままCommon Octopus……ああ、哀れ(笑)
 全世界のマダコ漁獲高の80%を日本人が食べていると言います。日本人が食べ過ぎなのか、日本人以外食べていないのか……両方でしょうね。

 全長で60cmになりますが、寿命は未だ不明ながらも一年〜二年と言われ、どうやら一年でこのサイズに達してしまうようです。ミズダコにしても凡そ一年で全長に達することから考えても、タコという種の成長速度は全生物を見渡しても大変速いと思われます。今後、貴重な蛋白質源として活躍するかもしれません(タコにとっちゃ良い迷惑ですが)。
 しかし、養殖はされておらず、タコの住処となる壺のようなものを沈めることで生息数を増やす努力が日本各地で行われているものの、インドネシアなどの日本以外の地域では行われていないのが現状で、今後乱獲への抑止力としても含め、このような取り組みが重要になってくるかもしれません…………って、アクアリウムのページじゃなくなってるよっ。

 え〜、飼育についてですが、まぁ慣れるよいタコです。また大きくなること、寿命が比較的長いことから長期に飼育が楽しめるとこがテナガダコの類と大きく違うところです。60cm水槽があれば終生飼育出来るでしょう。素晴らしい。

 ただ、混泳に関しては未知数であり、殺し合う可能性も高い(相性が悪かったり機嫌が悪かったり)ので、止めた方が無難です。繁殖に関してはなかなか難しいのですが………だからこそ、挑戦しがいがあるとも言えるかもしれません。




・ヒメコウイカ/CuttleFish

 ヒメコウイカの学名はSepia kobiensisであり、コウイカの学名はSepia esculentaであり、沖縄にいるコブシメの学名はSepia latimanus、であり、カミナリコウイカことモンゴウイカの学名はSepia lycidasな訳ですが、5cm程のこのコウイカ、一体何者なのかと言えば非常に曖昧。コブシメではないと思われるので、コウイカかヒメコウイカか、或いはカミナリコウイカか………はてさて
 コブシメは「コブシメの卵」として入荷しますが、入荷している時点で死んでいるものもあり、そのまま売られていたりすることもあります(苦笑)
 コウイカの仲間はコウイカとしてのみ入り、通常種の同定がなされることは有り得ません。成体ならばまだ分かるかもしれませんが、コウイカの仲間はタコよりも遥かに輸送が困難であり、20cm以上のものはまず出回らないでしょう。通常、5cm程度のものが出回ります。この辺の種の同定には通常、口の中の嘴か、舟の形により為されます。故に生きた状態での同定には役立ちません。
 コブシメにしろカミナリコウイカにしろ、コウイカの類の寿命は極めて短く、一年で成熟し死亡します。故に、ヒメコウイカを入手した場合、5cmであっても既に大人なので、後の飼育は寿命の関係で数ヶ月止まりでしょう。コブシメの場合、卵から始めれば十ヶ月ほど楽しめます(って、この辺のことはコブシメの項目に書くべきだったか)。

 水併せを行うことを怠らなければ比較的強く、23〜24度程度の水温でも飼育出来るようです。が、種により違うと思うので、18〜21℃を目安にするとよいでしょう。ちなみに我が家では0.0224程度の塩分濃度で飼育しています。

 餌ですが、まず人工飼料には餌付きません。過去、冷凍のエビ(小さいモエビ)をピンセットから食べた個体がいましたが、それは希有な例です。また、キャッチした瞬間にピンセットを離さないと、コウイカがピンセットに衝突してしまうという事故が起こりえます。よって、活き餌に割り切るべきでしょう。

 最適なのは小型のエビ。淡水、海水に拘る必要はありません。コウイカに限らず、イカの類の視力は人類に近いほど傑出した出来映えで、視界に入れば、90cm水槽の端と端に居たとしても認識します。空腹ならまず間違いなく、それまでの隠密性は何処へやら素晴らしい機動性を発揮し近づき、瞬間に捕獲してしまいます。
 コウイカ飼育の醍醐味の全てがこの餌遣りにあると言ってしまっても過言ではなく、何度見ても飽きることがありません。
 驚くべきことに、エビの視界の外から捕獲すべく、その背後に回り込むという知能すら発揮して見せるのです。

 その全てを此処で紹介することは出来ませんが、動画を用意しました。QuickTime形式の無音動画な上に画像は其程鮮明ではありませんが、雰囲気だけでも味わって下さい。

 びっくりして色変わり
 補食シーン01
 補食シーン02

 ペアを上手く揃えてやると交接する事がありますが、産卵床が海藻やサンゴの隙間でないとダメという種が多いコウイカのこと、なかなか産卵までは行きませぬな………小さいコウイカは、たまにしますが、コブシメやカミナリは、珊瑚か海藻にしか産まないようです。